渡辺 修哉という怪物

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渡辺 修哉という怪物

何が作られたのか

では最後に本作の悪、として描かれている『渡辺 修哉』について考えてみたい。彼に関しては先程の章説明でいくらか紹介した、問題はどうして彼が殺人をしても何も思わないほどに狂ってしまったのかという点だ。もしそうならなければ非常に優秀な人格者として育った可能性もあるが、幼少期の家庭環境からその影響は及ばないものだったと見るべきだろう。いうなれば、修哉という存在が創りだされたのは、彼の周囲にいた大人たちの自分勝手な道理や憤りが彼自身へぶつけられていたという点が挙げられる。

それは実母もそうだが、実父や養母に対してもそれは同じことが言える。修哉は確かに望まれて生まれてきた子供だったが、彼はそんな両親によって翻弄されてしまい、彼自身の人格形成にも大きな影響を与えてしまう。やがてその狂気は母親に対する執念めいた思いを創りださせる程に誇張されてしまった。

つまり、彼の歪んだ人間性を作り出してしまったのは修哉に関わる大人たちのせいだったと考察できるのです。

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母の無念

修哉の母は有名な大学に在籍しており、電子工学における研究に携わっていた。しかし大学院に在籍していた頃に修哉を妊娠して家庭に入らなければならず、自分の夢を半ばで諦めなければならなかった。その後自身が成し得たかった夢を息子に託すため英才教育を施すが、その際に研究に関わる事例を発見してアメリカの学会に提出する。それが高い評価を得て大学に戻ってくるように呼ばれるが、修哉の存在が母としての彼女の決定を鈍らせてしまった。最終的に断らなければならなくなり、もう少しで自分の夢をまた追えたのにという憤りから、修哉を虐待するようになる。

このことが父親に知られたことで離婚となり、その時には足枷程度でしかなかった修哉を捨てて再度研究者として歩き出した。戻った大学で研究先の教授と結婚し、新しい家庭にも恵まれて幸せな人生を過ごしていたが、その時に彼女は修哉という息子がいたことを既に忘れてしまっていた。見捨てられた修哉だったが、その後の状況は彼をさらに歪ませることになってしまう。

養母と弟の存在

離婚後、修哉に二人目の母親が出来る。後妻に当たる母親、それは修哉にとって悪影響でしかなかった。ただ決して関係そのものが悪かったわけではない、ただ状況を一変させたのが彼の弟に当たる存在が誕生したことだ。そのことがきっかけとなり、実家の自室を弟の部屋に無断で改良され、祖母の家へ押し付けられるという邪魔者として扱うようになる。父親もそれに賛同する形で、実母の影を持つ修哉のことを疎ましく思うようになり、修哉という存在をいないものとして扱ってしまうのだった。

実は森口は後妻にあたる修哉の母と一度接触しており、修哉の危険性を訴え続けるも聞く耳を持たれずに無下にされてしまう。その後子供が落ち着いた頃に修哉を息子として扱うようになったが、その時には既に修哉の人格は物語における狂気となってしまっていた。

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誰からも愛されなかった少年が辿り着いた場所

修哉にとって後妻も、弟も、そして父の存在も全てがどうでも良かった。ただ一人、母親に認めてもらえればそれで満足できたのだが、その母は自分を忘れて違う家庭で幸せに暮らしている。自分のことなどとっくに忘れて新しい生活を楽しんでいる、その現実は修哉にとって絶望だった。そしてその絶望故に自爆しようと爆弾を制作するも、爆弾そのものが森口に持ち去られてしまって自らの手で母大家を殺してしまった事実に、その絶望はどん底にまで叩き落とされてしまう。

誰の命に対しても無関心だった少年、そんな彼が最期に行き着いたのは唯一自分の味方をしてくれたクラスメイトを殺害し、さらには愛してやまなかった母をこの手で殺してしまうという大罪を背負うというもの。それは森口にとって自分と同じ絶望を味わわせることを意味し、さらに渡辺 修哉という存在を更生という名目で人間的に矯正させる事に成功した。

しかし直樹のように自我を喪失して、解離性障害を患って自分が誰なのか、自分の記憶を自分自身ものだと認識できないまでに追い込んだ事を挙げると、修哉にとってその先は明るい未来は待っていないのは確かだ。人殺しをしたこと、それがどれほど重い罰を受ける事になるのかを思い知らせるため、森口は課外活動とばかりに教え子を導いたといっても良いかもしれない。救いのない、永遠と埋もれていく底なし沼に飲み込まれながら地獄の淵へと落ちていくように。

今作はそんな復讐の鬼と化した教師であり、女性であり、母親が成しえる復讐劇となっている。